「マット釉」
釉薬はそもそも各原料がバランス良く溶け合って(共融)艶が出るものです。その艶をなくしマット釉を作るには、原料の比率を変えて溶けにくくするのが1つの方法です。長石・珪石・石灰・カオリンを原料とする石灰透明釉をマットにするには、原料のいずれか1つ
ないしは2つを増減させることで共融のバランスを崩します。ただしこの調合のマット釉は不溶気味の釉質となるため、実用性において汚れやすいなどの欠点があります。別の方法としてはマグネシア原料の添加が挙げられます。この場合は釉面に微細な結晶を作り、その僅かな起伏によって光を乱反射させ艶消し効果を高めます。
今回、当倶楽部では釉薬研究会を催し、皆で上記の2つの方法を組み合わせて、新しいマット釉を作りました。
珪石を増し・石灰を減らし やや曇る程度の調合を基礎釉として、そこにマグネシア原料の1つであるマグネサイトを10%前後加えることで抑えられた光沢と肌理細かい布地のような質感のマット釉ができました。田辺さんの四方皿や梨さんの鉢がその白マット釉です。この白マット釉に酸化金属や顔料といった着色剤を選び、乳鉢を用いて色マット釉へと発展させました。大倉さん・瀧本さん・梨さんと3つ並んだ碗は、それぞれ酸化銅・陶試紅・酸化コバルトグレーを加えたマット釉です。風間さん・石井さんは、マット釉同士の二重掛けを行っています。
この釉薬は細かな結晶により不透明感が増すため、下絵具の発色にも変化が出ます。梶田さんと野口さんはタンパン、関さんと和氣さんは塩化コバルトをあらかじめ素焼素地に塗り、その上に白マット釉を掛けることで、釉調合で作り出す物とは異なる着色を試みました。佐藤さんの絵付碗は、酸化焔焼成によって生成色となったマット釉を通して、呉須の線が柔らかく浮かんでいます。橋さんの小皿は細かい模様を色化粧土で描き、彩りを加えてあります。
焼成温度が高くなったり、溶けやすい釉薬を二重掛けにしたりすると、マグネサイトの結晶も溶けが進み表面を覆いきることができなくなります。大倉さんのぐい呑は耐火度のやや低い赤土で成形されたこと、また窯内で炎に近い場所にあったためか、結晶をまばらに残し透明な箇所が現れています。これを失敗と捉えず、違う魅力を持った釉薬の発見と考えれば、新たな釉薬研究の興味へと繋がっていきます。
筒井伸哉
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